「緑が見える部屋に住みたい。」

そんなふうに考えるようになったのは、いつからだろう。
僕の実家は、裏に竹藪があり、正面の窓の向こうには、遠く森が見えた。窓を開ければ、風に揺れる葉の音がして、朝起きると、うっすら光に濡れた緑が、日常の景色としてそこにあった。
それが当たり前だったからこそ、引っ越して街に出て、コンクリートとガラスの建物に囲まれた部屋に住んだとき、何かが抜け落ちたような気がした。
家具を選び、観葉植物を置いて、部屋の中に緑を足すことはできる。でも、窓の外に見える景色だけは、自分の力では変えられない。だから僕にとって「窓から見える緑」は、部屋選びの優先順位の中でも、ずっと上の方にある。
もちろん、どんなに便利な立地でも、どんなにデザイン性の高い部屋でも、窓から隣の建物の壁しか見えないなら、たぶん落ち着かない。
その理由を、ずっと言葉にできずにいたけれど、最近ようやく気づいた。
緑があると、自分の呼吸に気づける。
朝、ぼんやり窓の外を見ているとき。コーヒーを飲みながら、遠くの木の揺れを眺めるとき。心のスピードが、少しだけゆるむ。

人は、何かを見ているようで、その景色の中に「自分」を感じ取っているのかもしれない。
だから、僕はこれからも、緑が見える部屋を選び続けると思う。
それは単に、景色の話ではなくて、自分のリズムを取り戻すための選択なのかもしれない。